橘俊夫氏 企業はずっと存続して100年続かなければならない 後篇

橘俊夫氏 × 藤岡俊雄氏 対談 企業はずっと存続して100年続かなければならない 後篇

橘俊夫 東邦レオ株式会社代表取締役社長・一般財団法人レオ財団理事長
本編の前編は こちら >> http://arikata-daigaku.com/tachibanatoshio-201508-01

橘俊夫氏 企業はずっと存続して100年続かなければならない 後篇

何かおかしいと思うなら、自分は何をしているのかと自問し、何か他にできることがあるのではないかと考えた。自分にできることは限られてしまうのであれば、自分のことは置いておいても、世のため人のために生きている人たちを支援すればいいと考えていると語る、レオ財団 橘俊夫氏。利益のためではなく、経営的な技術を持ちながら世の中の問題解決をするというソーシャルビジネスのバックアップをレオ財団を通して行ってきた。レオ財団は、結果何が生まれたのかということを誇る財団にしなければならない。と、自分たちで何かをやったら競争になってしまうが、我々が主体的に何かをするのではなく、バックアップをする姿勢を徹底している。<編集部より>

人生の二毛作とは?

橘俊夫氏藤岡 橘さんが理事長を務めるレオ財団のことをお聞きしたいと思います。

 これも、先ほどの話ともかなり関係しますが、世の中のある程度の経営者がなぜ自分の立場にしがみつくのかと言えば、平たく言えば「辞めたらすることがないから」だと思うのですよ。何かすることがあれば、経営なんてとっとと辞めたいと思っている人はいると思いますが、他にすることがなかったら辞められないですよ。辞めたら何もすることがないわけですからね。

だから私は、人生というのは二毛作のように考えていて、会社を通じて商品を売って売り上げをあげて利益を出すというような、そういうインプットする時期とそれをアウトプットする時期と2つの人生を歩みたいと思っています。

元々、父は経営者として一所懸命頑張っていましたし、祖父は昔から郷土記念館を建てたり、世のため人のために色々動いたり、政治にも結構関与しながら社会貢献をしていました。利益を上げるということではなく世のため人のために生きるというロールモデルの祖父と、経営者としてのロールモデルである父を見ていて、両方ともすごいなと感じていました。しかし私は1度の人生の中で両方やりたいと考えたわけです。

藤岡 なるほど、なるほど。

自分の会社だけに関わってたらダメ

tachibana-fujioka-taidan3 2人の影響を大きく受けていたと思うんです。それである程度の年齢になったら、経営を譲って自分も何か人のためになることがやりたいという思いが基本的にあったわけです。

それで60歳を超えたぐらいから具体化に向けて考えました。うちの会社は5年では潰れるかもしれまませんが、2、3年では潰れないでしょう。たとえ売り上げがゼロになったとしても、3~4年分の給料や経費を払っても潰れないくらいの内部留保があるからです。3~4年かかって時代が求めるものを作れないような会社であれば世の中に必要ないから消えたほうがいいです。ただ何が起きるかわからないから、その時に対して備えるということくらいは経営者としてやっておくべきだろう。しかしそれ以上は必要ないのではないだろうか。うちの会社はそういう面ではある程度できたかなと自負しています。
しかしいくらうちの会社が立派にやったとしても日本という国がダメになったらどうしようもない。日本という国がちゃんとしていても世界が核戦争とか環境問題などが起こったら意味がない。

そして自分の会社だけに関わってたらダメだなという思いを持ち始めました。政治家が悪い、官僚が悪い、マスコミが悪い、と世の中ではみんな批判をしますよね。それは確かにそうだと思うけれども、だからといって人のせいにして言うだけでは何も変わらないです。何かおかしいと思うなら、自分は何をしているのかと自問したとき、確かに会社は一所懸命やっているけれども、それだけではいけないのではないか、何か他にできることがあるのではないかと考えました。

今困っていることはやらないという選択

 橘俊夫氏 × 藤岡俊雄氏 何から行動するべきか考えて一歩を踏み出さないと、いま自分にあるもの、持っているもの、戦力を客観的に分析してみようと思いました。ある程度のお金はあるな、今まで経験した色々な経営ノウハウもあるな、色々な人と接点を持ってきたので人脈もあるな、これらが活用できるなと思いました。かと言ってお金がどれだけでもあるわけではないし、大きな組織があるわけでもないから、戦略的には弱者の戦略で行こうと考えました。弱者の戦略でいちばん大事なことは「これはやらない」ということを決めておくことです。何でもかんでもやろうとしたら資金も何もかもすぐに終わってしまいます。

社会という大きな枠組みの中で、「さあこれから何かを立ち上げていいことをやろう」と考えても、自分が65歳から始めるとすると、5年や10年ではなかなかできないでしょう。よくよく世の中を見てみると、藤岡理事長もまさにそうですが、自分のことは置いておいても、世のため人のために生きている人が結構いると気づきました。ならばそういう人たちを支援するということならできるのではないか。自分で何かをするのではなくて、そういう生き方をしている人を支援するのは簡単なのではないかと考えたわけです。

社会的なインパクトで考える

tachibana-fujioka-taidan-2-7 色々なことをやっている人がいるから、ジャンルを絞らなければならないということで、何が社会的インパクトがあるかということを優先に考えました。短期で考えず、「やらない」ことを絞ったのは、以前に小泉(純一郎元総理大臣)さんが「米百俵」の話をしましたが、困りごとはたくさんあるけれども、「困っているから何かして下さい」ということに1つ1つ対応していたらすぐ力が尽きてしまいますので、「いま困っていることは、我々がやることではない」と割りきって、そういう困ることが起こらないようにするという考え方です。

マイナスをゼロにするのではなく、それがあることによってプラスになるような活動を支援して、困らない状況を作るための活動として何が一番インパクトがあるだろうかと考えました。日本は法治国家だから法律がないと何もできないわけですからまず政治家だな、特に国会議員がすごく大事だなと。しかし国会議員というのは最初は志を持って行っているはずなのに、議員になった瞬間から何か変わってしまう。なぜだろう?それにはそれなりの理由があるわけです。確かに彼らは大変リスキーな職業で、解散して次に落選したらもう去年の税金が払えない、生活保護者になってしまうわけです。そこまでのリスクがあるから、彼らが保身に走るのも当たり前と言えます。

それなら、それなりの志を持って議員になる覚悟があるなら、もし落選した場合でも「3年や5年は何とかバックアップしたるわ」というような旦那衆みたいなのが必要かもしれないと思いました。その代わり「自分の好きなことをやるのではなく世のため人のためちゃんとした政治家になれよ」というような、それは政党がどこであるとか、特定の政策に賛成・反対であるとか、そんな小さな問題ではなくて、自分のやっていることは本当に世のため人のためにという純粋な思いからなっているのかどうか、人間的にちゃんと信頼できる人をバックアップするような仕組みがあるといいのでは、というのが、思いの1つとしてありました。これまでに何人かの議員さんを今すでにバックアップしています。

真の学問をバックアップする

橘俊夫氏 × 藤岡俊雄氏 対談 企業はずっと存続して100年続かなければならない 後篇 2つめにやはり一番大きいのは教育だと思うんですね。
教育といえばほとんどが、塾だとか偏差値を上げることに教育のほとんどのリソースが使われているようですが、そうではなくて何のために生きるのか、何のために勉強するのかということ。人生をどう生きるのかということの中で、そのために学問とは何のために必要かということをちゃんと教える人間が必要だと思いますし、そういう人をバックアップしなければならないと感じています。

「真の学問とは、小欲を大欲に変えるための手段なのだ。小欲とは己のみの欲求を満たすことであり、大欲とは人間そのものの幸福を満たすことである」これは二宮尊徳の言葉だそうですが、この言葉を約30年前に知ったときに私は「真の学問」を「真の経営」に置き換えてよく考えていました。

「経営は何のためにやっているのか?」と言えば、自分たちの欲求を満たすためではなくて、人間そのものの幸せを満たすということが経営の本質なのではないかと、置き換えたらそう思えたのです。株主のための経営ではないということは明らかです。そんなわけで、教育というものに対しても、人間が幸せになるためにどういう学問を学ばなければならないのかを教えている方をバックアップしています。

ソーシャルビジネスの重要性

橘俊夫氏 そして3つめが、需給経済という人間の欲望というものをエネルギーにしながら新しい価値を創造していくというのは最高の仕組みだと思いますが、欠点は競争社会ですから勝者と敗者ができてしまうわけです。そこを上手く回らせるためには、利益のためではなく、経営的な技術を持ちながら世の中の問題解決をするというソーシャルビジネスが極めて重要だろうと思います。

そこで頑張っている人たちが結構いますよね。そういう人たちをバックアップするべきだろうと。我々はどの立場・位置でそれをやるのかということを「井戸水理論」と呼んでいます。完全に水が流れている水脈を見つけました、建管も造りました、井戸もあります、漕ぎ手もおります、ただ呼び水がないことによってちゃんと回らないんですよ、という時点において我々は呼び水を提供します。その呼び水に当たるのがお金であったり、人脈であったり、経験であったり、そういうものを提供することによってそれが回転するような状況を作ることができたら一番効率がいいだろうと考えます。呼び水さえあれば渾々と上がってくるようなものが、どこにあるのか探すのが今の大事な仕事だと思っています。

藤岡 そこは共感しますね。物事をゼロからやろうとすると広がりがあり過ぎて、みんな何をしていいかわからなくなるんですよね。

 自分たちで何かをやったら競争になってしまうんですよね。我々は自分たちでやらないということは決めているんです。そうじゃないと情報が入って来なくなります。我々が主体的に何かをするのではなく、バックアップをする。
それと、財団として何を以て成果とするかですが、財団というのは何件に対していくらお金を出しましたとか、こんなことをしましたというのを言いたいわけですが、私はそんなことは関係なくて、それによって結果どうなったのかということが一番大きいのであって、我々が何をいくら提供しても、そこで止まってしまうようなお金であるならば初めから出さないほうが良いです。それによって結果何が生まれたのかということを誇る財団にしなければならないと思っています。

必要なのは自発性を生み出すプラットフォーム


藤岡
 シンパシーを感じます。私は経営実践研究会というものをやっていますが、いま言われたような立ち位置を実現しようとしていて、NPOやNGOの方々と経営者との接点となるようなプラットフォームを作っています。経営者はたくさんの人脈もありますし、呼び水を出すこともできるんです。一方NPOやNGOの人達は違う層の人脈を持っていますから、経営者にとってもプラスになります。

 そうですね。

藤岡 ですから、そういうプラットフォームをしっかり作れば、その中で良い関係性が生まれていくんじゃないかと思います。レオ財団に私も呼んで頂いて、参加してみて、まさしくプラットフォームづくりだなと感じました。
 準備を始めてから2年半ぐらいになりますが、人の繋がりが想定していたものと全く違った広がりを見せています。自分でもびっくりしています。やはり、やってみないと分からないものですね。適当に集まって来てくれた人達が、私を全く介することなく、色々なことが色々なところで勝手に生まれているというのが非常に嬉しいです。最初は私との繋がりで集まってくるわけですけれども、その人たち同士の気が合うようで自発的な動きが次々に出てくるというのが想定外でした。

藤岡 私たちもまだまだ駆け出しで勉強不足ですから、色々ご指導頂きたいですね。

橘 とんでもない。我々もやり始めたところで、このレオ財団を今後どうしていくのかというのが非常に大きな課題です。私が何をやりたいかというと、私が持っているお金や行動力や人脈なんてたかが知れているわけで、私よりも素晴らしい経営者・お金持ちは他にたくさんいると思いますね。ただ今のままで死んで、国に税金を納めたとして、どんな使われ方をするのかということを考えたら、自分が生きているうちに自分が思うようなお金の使い方をして死ねるということを自分で立証したいのですね。「それやったら私もこういうふうなことをやってみるわ」という、そういう人の繋がりを広げていくということが私の最終の望みです。自分の納得のいくお金の使い方をして死んだほうがいいじゃないかということを、10人、20人と広げていきたいですね。それを自分でやらないのに人に言うことはできないから、自分でやってみて「こんな事ができていますよ。あなたもやったら絶対できますよ」と言える状況を横に展開できたら、かなりインパクトのある広がりを見せられるんじゃないかなと思います。

藤岡 そうですね。

 そのために本当は会社の方を早く譲ってレオ財団の方にと思っているんですが、なかなか思うようになりません。東邦レオの方は65歳を機に会長職にと思っていたんですが、まだ会社のほうにリソースが取られてしまっているというのが現状です。レオ財団は月例会とかはできていますが、もっと本格的にやりたいと思っています。藤岡さんみたいな事務局長がいてくれたらどんどん推進できるのですが(笑)

藤岡 私も深く関わらせて頂きますので、我々がやっていることにも橘さんがどんどん関わって頂けることを期待して、これからもお付き合いを宜しくお願いします。

こちらこそ、宜しくお願いします。

本編の前編は こちら >> http://arikata-daigaku.com/tachibanatoshio-201508-01

プロフィール 橘俊夫氏

橘俊夫東邦レオ株式会社代表取締役社長・一般財団法人レオ財団理事長東邦レオ株式会社代表取締役社長・一般財団法人レオ財団理事長
愛媛県生まれ、甲南大学在学中に、自費で世界一周に出発、73年大手旅行社に入社。74年東邦パーライト(現・東邦レオ)に入社、90年同社社長に就任。93年東邦レオ㈱に社名変更。経営理念は利他の精神を基本とし、人生の結果は、情熱×能力×考え方によって決まり、考え方の方向がもたらす幸福への影響は重大であると位置づけている。正しい考え方、正しい志を教育啓発し、若いリーダーの育成と支援のため、2013年9月にレオ財団を設立。

 

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