ホームレス状態を生み出さない日本へ【対談】Homedoor 川口加奈氏
Contents
ホームレス状態を生み出さない日本へ
川口加奈氏 NPO法人Homedoor 理事長
路上から脱出したいと思ったら脱出できる「出口づくり」
藤岡 まずは、いま現在の活動内容をお聞かせ頂ければと思います。
川口 Homedoorは5年前に「ホームレス状態を生み出さない日本へ」ということで3つ柱を立てて活動を開始しました。
1つが路上から脱出したいと思ったら脱出できる「出口づくり」、その「出口づくり」として就労支援と生活支援という枠組みで、就労支援であればこのHUBchariというシェアサイクルだったり、HUBgasaという傘のリメイクのプロジェクトだったり、生活支援というところでは「アンドハウス」という梅田のほうにホームレスの人をサポートする拠点を持っていまして、これは兼事務所なんですけれども、おっちゃん達がホームレスの人って家がないので「空き時間ができた、じゃあ家に帰ってゴロゴロしよう」というのが出来ないわけなんですよね。百貨店とかを歩き回って今だったらちょっとでも涼しいところにとか、落ち着いて何かをすることもできないので、そういう溜まり場だったり。
あとは、ごはんを食べられるような設備とか、洋服を洗濯できるような、そういう拠点を梅田に作りたいなというのでこのアンドハウスというものを(運営)していたり、生活支援では生活支援の講座を月1~2回おっちゃん達に(開催)して、金銭管理をしたりとか、就労と生活という面から路上脱出をサポートするということをしています。
他にもホームレスの人をどこから連れて来るのか、確保するのかというところで、「ホムパト」という夜回り、おにぎりをホームレスの方に配って回る活動だったり、後はネットカフェ難民などにも対応したいなということでネットカフェ会社さんにバナーを張らせてもらって、そういう窓口・入り口を作っていくというのを「出口づくり」としてしています。
もう1つの柱として「入口封じ」というものがあるんですけど、これはホームレスになる前の段階でホームレスにならないで済む方法を提供しようという。
岡 「入り口封じ」…。入り口でどうやったらホームレスになりそうだということが分かるのでしょうか。
川口 そうですね。「ホームレスになりそう」となると皆さんどこに行ったらいいか分からず、それで徐々に貯金がなくなって家も追い出されて、遂に路上に至るという…。なので、路上に至る前の段階でストッパーを作りたいなという、それがいま1つやっているのがネットカフェ難民。
ネットカフェからさらにお金が最後無くなってしまうと路上になるので、そのネットカフェ状態で何とか支援を、「こういうのがあります」というのを伝えたいなぁと。
あとは皆さん困ったらググったりするので、検索エンジン大手2社さんの協力で広告を出させて頂いたりとか。
今後はもう1つ施設を作りたいなぁというふうに思っていて、いま小さく施設をやっているんですけど、宿泊機能をつけてホームレスになりそう!ってなったときに、「とりあえずあの施設に行ったらホームレスにならずに済む、宿泊できる場所がある」という場所を作りたいなあというのが「入り口封じ」です。
好きでホームレスになっているわけではない、「なぜホームレスになるのか?」を知ってほしい
川口 3つめの柱として「啓発活動」をやっていて、ホームレスの人への偏見から襲撃事件が起きてしまっているので、襲撃を予防するような教材のDVDや本を製作して全国の小・中学校に入れてもらったりとか、釜Meetsという釜ヶ崎の街歩きとワークショップのプログラムをやったり、あとは講演やワークショップを年間80回、去年ですと100回ですかね、やっていると。そんな状況です。
藤岡 連れて行くんですね、講演に。
川口 そうですね。おっちゃん達を連れて行くこともあれば、自分たちで開催することも、私だけが行くことも、小・中・高校であれば実際におっちゃん達を連れて行って体験談を話してもらいますね。自分が襲撃されたときの話とか、そういうのを話すと聞いている中高生も襲撃しようとは思わなくなるので、そういうことをしています。
計9つのプロジェクトをやっていて、ちょっとワチャワチャしているんですけど(笑)
藤岡 9つもあるの…。
川口 そうなんですよ。説明するのが結構大変なんですけれども。
藤岡 どんどん増えていくんですね。
川口 そうですね。やはり路上から脱出するというときに「あんな方法もあるし、こんな方法もある」という選択肢をたくさん作りたいなあと思っていて、今はHUBchariやHUBgasaだけではなくて他にも何種類か仕事を提供していて、それで60人ぐらいのおっちゃん達が働いているんですけれども…。
藤岡 このHUBchariというのは収益源はどういう形なんですか?
川口 利用料の収入と、法人(企業様)からの広告収入ですね。
藤岡 広告は自転車に付けたり?
川口 そうですね、あとはHUBchariのマガジンも出しているのでそれに広告を出して頂いたりとか、そういう形ですね。そのマガジンは「RingRing」(リンリン)という名前なんですけど、チャリで巡る大阪の観光ということでカフェなどが載っていて「チャリで行ったら何割引き」みたいなそういう事をやっています。
海外志向が強い小学生時代、きっかけは9.11
藤岡 すごいですね。14歳からホームレス問題に関心を持って活動を始めたということですけれども、それまでの子供の頃というのは何かそういう事を考えていたりしたんですか?
川口 ホームレス問題には全く興味はありませんでした。それよりも、小学生の頃は戦争文学が非常に好きで。本を読むのが好きで、その中でも戦争は特に不条理なわけじゃないですか。その不条理な状況に陥りながらも頑張る家族愛とかに感動をする、一般的な感動をしていたんですけれども。戦争文学を読めば読むほど、夢に出てくるようになったんです。
夢に出てきて、私は高石市出身なんですけれども、近くの浜寺という地域は戦後アメリカ軍の別荘地だったらしく高級住宅街で、海岸があるんですよ。
なので読めば読むほど、近所にある海岸から敵が海の中から匍匐前進で上がってくるという夢にうなされるようになって、それが私の中では戦争の疑似体験をしたような感覚で。海の近くにいるから一番に襲われると思っていましたし(笑)
それで戦争は良くないという気持ちを持つようになり、それから中学1年生のときに9.11が起きて、イラク戦争もあって、海外の戦争を何とかしたいなあと。それで国連とかそういうところに行きたいなあと思っていて、それで中学校に上がるときに英語に強い学校に上がろうと思ったりとか、結構海外志向が強い小学生時代を過ごしていたかなと思います。
おっちゃん達のおかげ
藤岡 すごいですね。今の活動をしている中で、楽しかったことや嬉しかったことがあれば教えて下さい。苦しいことはたくさんあると思いますので(笑)
川口 そうですね。私自身、「これに対して嬉しい」とかそういうことはあまり思わないようにしていて、例えばおっちゃんが路上脱出できたとか、おうち見つけれた、仕事見つかったってそれを喜びにしてしまうと、私がどうしてもおっちゃんにそれを押し付けてしまう、そんなところがあって。私自身、ホームレスの人全員におうちを持って欲しいとかそういうわけではないんです。別にそれはおっちゃんの自由だし、ただ路上から脱出するときの選択肢を用意したいというだけだったので、そんなに(喜びだとは)思わないようにしていたんですけれど、HUBchariを始めたときにおっちゃんが看板を作ってきてくれたこととか、自発的にHUBchariを盛り上げようと次第におっちゃん達が色々工夫してくれるようになったんですね。特にHUBchariを卒業して次の仕事を見つけた人が、その仕事の休みの日はHUBchariの拠点間でチャリが偏ってくるわけじゃないですか。
藤岡 乗り捨てだもんね。
川口 そうですね。やっぱり人気な拠点とかに集まったりするので、そのチャリを自発的に移動してくれていたりとか。
藤岡 自転車を移動させた後は歩いて帰るわけですよね。
川口 そうなんです。夏の暑い日も冬の寒い日も、そうやって運んでくれて。だからこのコミュニティサイクル、シェアサイクルと呼ばれるこの仕組みは非常に赤字が出る、全国いま何十カ所もこのシェアサイクルを成功させたいと大手企業さんも乗り出してやってるんですけど、どこも採算割れしているんですよ。
藤岡 自治体がやっていたりしますよね。
川口 自治体もほとんど補助金は出してくれなくて、今はほとんどが企業さんの持ち出しみたいな形でやっていて、利用料金もそんなに高く設定できない。そんな中でHUBchariはおっちゃんたちの工夫もあって、2年目にして黒字になったという喜びはありましたね。今も利用者がうなぎ上りに増えています。
宿泊機能を持った自立支援を促せる施設づくりが挑戦したい
藤岡 ならではですね。これから、活動を続けて行く中でどんなことを目指していくのか聞かせて頂けますか。
川口 1つはさきほど申し上げた「出口づくり」「入り口封じ」「啓発」という3つの柱を大阪市という地域だけでもいいので完成させて、全国的にも何か応用できるようなモデルとして事業を作り上げていきたいなというのがあります。
そして、そういう中でこの2~3年ぐらいの挑戦になってくるのが、さきほども言いました、宿泊機能を持った自立支援を促せる施設づくりが挑戦したいことですね。
いまはホームレスの人向けにシェルターとか宿泊施設みたいなものが行政から用意されていることも多いのですが、あまり機能が十分と言えなかったり、行政がやることなので民間のサービスよりレベルを下げないといけないわけなんですね。大阪は500円で1泊できる(民間)施設もあるので、要は1泊500円以下ぐらいの施設にしなければいけない。そうなってくると、大広間に2段ベッドがずらっと並んでいるような施設になってしまうんですけど、私は路上から脱出する、もしくはホームレスになる前の段階でその施設に来て、もう一度頑張ろうと言う時にはやはり個室で、そして路上脱出できるために色んな設備が整えられていて、その宿泊費用も私たちが無償で提供するのではなくて、その施設の中で例えばその施設の食堂のお手伝いをしてもらうとか、そういうお手伝いをしてくれるから泊まれるとか、そういう施設内で循環しながらちょっとずつ貯金を貯めて、次のステップとしては施設を出られるように。そういうステップのある施設を作りたいなあと思って準備をしているところです。ちょうど先々月にもアメリカのニューヨークに世界的に有名なホームレス支援の団体があって先進事例があるので、そこの代表の方とお話してきたんですけど。アメリカは寄付文化が発達していて企業さんからもバーンと(お金が)出るので成り立ったところもあると仰っていましたが、私たちも日本で5年ぐらいやってきて、企業さんからなかなか支援がもらいにくいんですよね、ホームレス支援というのは。
企業さんのCSRとしては環境とか木を植える活動とか、キャッチ―で分かりやすくて誰もが「それ大事」って思える支援をしたいと思うんです。ホームレス支援は企業さんとしても乗り出しにくいところだと思いますし、どうしても自己責任論が消えないので。
そこをクリアしないと実現できないのかなと思っているので、そのためにどうやったら企業さんにホームレス問題を伝えられるんだろうということを今年は研究しようと思ってやっています。
藤岡 これから私たちも経営者として、皆さんの取り組みを勉強しながら共にやっていけるように頑張っていきますので、宜しくお願いします。今日はどうもありがとうございました。
川口 ありがとうございました
プロフィール 川口加奈氏
NPO法人Homedoor 理事長
14歳でホームレス問題に出会い、19歳で法人創設。
ホームレスの自転車修理の技術を活かしたコミュニティサイクルの仕組みを立ち上げ、生活困窮者の自立支援を行う。ホームレスの人が路上生活から脱出できる出口作りとその予防、啓発活動に取り組む。
実際、Homedoor(ホームドア)では、ホームレス状態になりたくないにも関わらずそうならざるをえない状況や、ホームレス状態から抜け出したいと思っても抜け出せない状況、ホームレスの人々への偏見がなくならず、襲撃事件が後をたたない状況を9つの取り組みによって解決していきます。
<事業>
- HUBchari : ホームレス問題の中でも現在特に深刻なのは、「ホームレス」を脱し生活保護を受けるようになった方が、なかなか次の段階に進むことができず、生活保護を受給し続ける以外に道がないということです。HUBchariは、この問題を解決するため、ホームレスの人々の共通の特技である自転車修理を活かしたシェアサイクルです。。
- HUBgasa : 年間1億3000万本も使い捨てされるビニール傘を、そのリサイクル販売を通して、環境問題の解決を図りながら、修理作業をホームレスの人々や生活保護受給者らが担うプロジェクト。使えなくなった傘をリメイクして自転車カバー等の作成もしています。
- CHANGE : 生活保護受給等により、社会的孤立を抱えていたり、就労意欲や自尊心が低下している方を対象に、生活支援から就労支援まで個人に合わせたプログラムを提供し、生活保護脱出のお手伝いをしています。
- ホムパト : 大阪市北区にて、ホームレス状態にある人々への夜回り活動を定期的に実施しています。大阪では、路上での凍死・餓死や、野宿者への襲撃事件が跡を立たない状況です。これらを少しでも防止し、適切な支援に結びつけられるように生活相談にものっています。
- 釜 Meets : 日本で最もホームレスの人々が多いといわれる釜ヶ崎(あいりん地区)とその周
辺のまち歩きと、炊き出しへの参加やワークショップを行い、日本の貧困問題をじっくり考える場を提供しています。2010年より続く、参加満足度98%の人気イベントです。中学生から大人まで様々な方が参加されてきました。奇数月の月末の日曜日に実施しています。依頼によっても実施しています。 - HCネット : Homedoorでは、一般社団法人「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」
(通称HCネット)の事務局をしています。HCネットは、子どもや若者たちによる「ホームレス」 襲撃を防ぐために、支援者・メディア関係者・教員などで2008年に結成した団体です。 - アンドハウス : 大阪市北区で、路上脱出を応援する設備を用意した施設を運営しています。栄養のある温かい食事が取れたり、昼寝がとれ洗濯ができたりと、ホームレスの人のニーズをもとに必要だという設備をぎゅっとつめこみました。
- 講演・ワークショップ:Homedoorでは年間80本以上の講演やワークショップを実施しています。代表・川口が14歳でホームレス問題に出会って19歳でHomedoorを立ち上げたストーリーや、ホームレスの人々への襲撃防止にむけた中高大学生向けのワークショップ等を通して、根深いホームレス・生活保護受給者への偏見を解消します。
インタビューア 藤岡俊雄氏