大葉ナナコ氏【ベビー&バーズフレンドリー財団】ベビー&バースフレンドリーな社会を創りたい
- 2015/11/25
- 対談・インタビュー
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ベビー&バースフレンドリーな社会を創りたい
【対談】大葉ナナコ氏 一般財団法人 ベビー&バースフレンドリー財団 代表理事
× 石神隆弘氏 株式会社ACSコンサルティング 代表取締役会長
新しい命の誕生に、肯定的支援を
株式会社ACSコンサルティング 代表取締役会長 石神隆弘(以下、石神): 大葉さん、こんにちは。今日はよろしくお願いします。
一般財団法人 ベビー&バースフレンドリー財団 大葉ナナコ(以下、大葉): こんにちは、よろしくお願いします。
石神: まず、「一般財団法人 ベビー&バースフレンドリー財団」は、どのような活動をされているのですか?
大葉: 私どもは、企業の皆様に「”女性の活躍推進”と”少子化対策”との両立」を支援いただくため、「バースフレンドリー企業フォーラム」というイベントを定期開催しています。
「バースフレンドリー企業」とは、「新しい命の誕生に肯定的支援がある企業」を意味し、私たちがそう呼んでいるものです。企業の方々に対し、「少子化対策」と「女性活躍推進支援」のできる場所を提供しています。
「バースフレンドリー企業フォーラム」は毎年7月に開催しており、11月3日にも「1103」=「”いいお産”の日」として、「出産と仕事フォーラム」を開催します。これまでも、企業で働く女性たちを対象にした事業を毎年行ってきましたが、「制度ができても、風土ができない」ということで、皆様悩まれておられました。そこで当財団は、経営者の皆様に対し、風土づくり・制度づくりに関する情報共有をさせていただく形で事業をしています。
石神: 何がきっかけで、事業を始められたのですか?
大葉: これまで18年間、産婦人科のマタニティークラスや安産教室で、父親になる男性や夫婦を対象としたBtoCをしてきました。その中で、出産を希望される女性には、実は正規雇用の方が多いこと、そして正規雇用の方の流産率は10~15%という現実がありました。もちろん、どの世代の女性でも流産率はありますが、「妊娠初期の女性が働く企業で、支援体制を作れたら安心できるのではないか」と思ったのが始まりです。
出産動機を一番高めるのは、勤務先の応援
大葉: また、12年やっている別の会社があり、そこでは企業のマタニティー施設やマタニティーの方向けの研修をしていました。流産の経験がある働く女性にインタビューをすると、「流産をした際、自分の所属長に相談できなかった」という方が多くを占めることが浮き彫りになったのです。「日本の企業には、そのようなことを相談できる体制や風土がない」ということでした。
それらの経験から、「働く女性たちに対する、妊娠初期や妊娠希望時期の支援を高めれば、日本の子供も増えるのではないか」、「産めそうだと感じる女性や、パートナーの男性も増えるのではないか」という考えに至ったのです。
日本で「ダイバーシティ」(多様な人材を積極的に活用しようという考え方)を提唱し始めた、シカゴ大学社会学部教授で経済産業研究所の山口一男教授が、米国でアンケート調査をした結果、働く女性たちの出産動機を一番高めるものは、「勤務する企業の応援があること」でした。2位は「パートナーが育児家事に参加してくれること」で、3位が「経済的安定」でした。
日本の少子化対策はどちらかと言えば、「経済的な安定」を課題とし、「育児休業給付金」や「子育て支援金」などの政策が出ていた時期もありました。しかし、シカゴ大学のデータを含め山口先生に直々に学ばせていただく中で、「勤務先の企業の応援こそが、出産動機を一番高める」と確信したことも契機になりました。
制度より風土。共感と相互理解を
石神: なるほど。今後妊娠を望まれる女性に対して、企業側の支援はとても大切ですね。
では、企業に対しいろいろな活動をされている中で、実際どのようなことに困っていますか。
大葉: やはり、「制度より風土」ということを実感しています。現在は育児・介護休業法などが改正され、男性でも育児休業が取りやすいような制度があります。しかし現実は、「制度があっても使いづらい」と感じている方が多いのです。
多くの企業様が制度は作ってくださっているので、その制度がきちんと回るようにすることが重要だと思います。
そのためには、コミュニケーション、特に「理解されにくい非言語の部分」を共感していくことが大切です。企業様の中で、「妊婦さんのお腹に赤ちゃんがいる時の重さ」を体験できるジャケットを身に着ける研修を希望される場合があります。例えばその体験を通して、妊婦さんがどれだけ重い中で仕事をしているのかを実感することができ、さらには共感できるようになるはずです。そういった相互理解を企業内で増やしていくことで、「言いづらいことでも相談できるような風土」を育てていくことが大切だと思います。
石神: 確かに、「制度はあっても、実際に使われていない」ということはたくさんありますね。そのような制度を、企業内で自然に使うことができる風土は必要だと思います。
出産・育児を支援できなければ、介護は支援できない
石神: 特に中小企業の場合、バリバリと仕事をこなしている女性社員が、妊娠・出産でお休みされることを「リスク」と感じている場合もあるかと思います。そういう企業に対しては、どのようなアドバイスをされていますか?
大葉: その問題につきましては、女性社員の方々に対し、「妊娠・出産を通過しても働き続けたい」と思えるような教育も必要だと思っています。
実は、現在の女子大学生には専業主婦希望の方が多く、これは産業界の発展を考えた場合、非常に不利益なことです。そこで女性社員の方々に向けて、例えば「仕事を辞めてしまうと、生涯年収に約2億円の違いが出る」ことや、企業のさまざまなバックアップ体制を知ってもらう取り組みも必要だと考えています。
そういった問題解決のために、私たちの中では「バースフレンドリーマネージャー」と呼んでいますが、妊娠・出産を経過しても働き続けている女性講師が多くおりますので、ふさわしい形で企業様の研修をさせていただけたらと思います。
また、中小企業様にご理解いただきたいのは、妊娠・出産をビジネスプランに入れているビジネスパーソンがいた場合に、「産前・産後休業、育児休業の2年前後の期間、支援できなければ、介護がある社員に対しては支援などできないだろう」ということです。今時は一人っ子の方も多いですし、”人口の4人に1人が65歳以上になる”超高齢化社会までは、すでに秒読み段階です。出産・子育てのある社員を応援できなければ、介護がある方々など、とても応援できないでしょう。
働き手の家族も検討した経営デザインこそ、本当のダイバーシティ経営
大葉: 企業は、社員のご家族に介護が必要になった時期の支援が必要です。それこそ社員がマネージャークラスになる頃に、両親の介護は始まるのです。日本の健康寿命は男性70歳、女性74歳ですから、それ以降は誰かによる介護が必要になります。健康経営をお考えであれば、その働き手のご家族も検討した経営デザインでなければ、本当のダイバーシティ経営とは言えないでしょう。
石神: これからの日本が抱える問題を考えた時に、”多様性を認めていく”ダイバーシティ経営は確かに必要とされていますね。
では、今後の事業展開をどのようにお考えですか?
大葉: 「結婚して働いている女性の95%が、子どもを持つことを希望されている」というデータがあります。働き盛りというのは、どうしても育児盛りの時期と重なります。女性たちが「これからも仕事を続けたい、けれど家庭も持ちたい」という時に応援してくれる専門のメンターとして、「バースフレンドリーマネージャー」を企業に展開しようとしています。
石神: 今日はありがとうございました。
大葉: ありがとうございました。
大葉ナナコ氏 プロフィール
一般財団法人 ベビー&バースフレンドリー財団 代表理事
東京都出身。中学、高校、短大と8年間美術教育を受け、1985年、女子美術大学短期大学部生活デザイン科卒業。
1987年に自然出産や母乳育児を経験し、女性のボディ・システムやいのちをつなぐ優れたデザイン性に感動。受講した出産準備教育の分野や産後のライフデザイン、ストレスマネジメントに関心を持つ。
専門職の必要性を感じ、テレビ番組や出版分野で出産・育児の情報コーディネイターをしながら、国内外で妊娠・出産の生理や心身のサポート、出産準備教育、カウンセリングやボディワーク、慶応義塾大学通信教育学部で出産準備教育に必要な心理学、教育学、社会学などの単位を取得。
1997年より、妊娠前でもカップルでも学べる講座を助産師と開講。桜美林大学オープンカレッジ、毎日新聞カルチャーシティなどで好評を博す。
2003年、有限会社バースセンス研究所を設立。産前産後の生涯学習、パートナーシップ支援、女性の心身に優しく豊かな出産を実現するための調査・研究・講座運営・出版・後任の育成を開始。世代別の優しい出産の学習プログラムを生み出し「誕生学」®と名づける。
2005年、有限責任中間法人 日本誕生学協会を設立。次世代の妊娠出産育児を豊かにするべく、助産師、産科医、学識者や保護者たちと協働し、次世代支援者「誕生学アドバイザー」育成を開始。親子のエンパワーメント活動を開始する。 http://bbff.or.jp/
インタビューア 石神隆弘氏
株式会社ACSコンサルティング 代表取締役会長
1967年9月3日 大阪生まれ。
大学中退後、日本テレコム株式会社入社。入社半年で全国トップセールスマンになる。
23歳独立、クライムグループ創業。全国54の支店営業所を開設。
36歳ロサンゼルスに渡る。帰国後、株式会社ACSコンサルティングを創業。
経営実践研究会副理事、一般社団法人 公益資本主義推進協議会(PICC) 東日本エリア長を務める。