堀 久仁子氏【サービスグラント】社会的課題解決により社会がよくなる道筋が見える喜び
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社会的課題解決により、社会がよくなる道筋が見える喜び
新しい社会貢献の形として、注目されるようになってきたのが「プロボノ」。職業を持つ人が自らの専門知識や経験、技術を活かして行う、社会人ボランティア活動である。週末や夜など仕事以外の時間で、仕事で培った「スキル」や「ノウハウ」を提供し、NPO団体や地域活動を支援する活動には、社会貢献に加え、参加者自身の人脈や視野拡大、さらには人材育成効果も期待されている。
「プロボノ」が周知されてきた背景には、参加したい社会人ボランティアと、支援を希望するNPO団体を結び付ける団体の存在がある。国内で、双方をマッチングする中心的役割を担ってきた団体「サービスグラント」関西事務局の堀 久仁子氏に話を聞く。<編集部より>
堀 久仁子氏 NPO法人 サービスグラント 関西事務局
NPOと社会人ボランティアをつなぐ活動
NPO法人 サービスグラント 関西事務局 堀 久仁子(以下、堀): 私たちの活動は、サービスグラントを通じてNPOを応援する活動です。NPOに対して「お金」を支援する助成金(グラント)と異なり、「スキル」や「ノウハウ」を提供することによってNPOを支援する「プロジェクト型助成」を行っています。
NPOさんは、日々のことはできるのですが、中長期の経営計画を立てて長くやっていくことはなかなかできにくい傾向があります。 一方で、社会人ボランティアの方は、どこに行けば社会に役立つボランティアができるのか、その窓口が分からないようです。地域清掃などのボランティアであればまだ想像はできるけれども、自分のスキルを使ってできるボランティアにはなかなか接点がないということで、そういう方たちを結び付ける活動をしています。
現在は全国で登録されている方が2500人くらいおられて、関西圏では450人くらいの社会人の方がボランティア登録をされています。
株式会社 シーエフエス 代表取締役 藤岡俊雄(以下、藤岡): 450人もの方が登録されているのですね。
堀: はい。そうですね。しかし日本中にいる社会人の母数から考えると、全国でも登録がまだ2,500人というのは、かなり少ないと思います。
「プロボノ」という言葉が日本に入ってきたのが2010年ごろと言われているので、まだ5年ほどです。少しずつ認知が広まっているようにも感じていますが、例えば「フェアトレード」という言葉を多くの人が理解するようになったのに比べると、プロボノはまだまだです。お話しさせていただいても、「特別な人がすること」のように取られることが多いのが正直なところです。
藤岡: ボランティア登録をされる社会人は、企業の社員さんが多いのでしょうか?
堀:そうですね。どこかの会社に属されている方が多いです。しかし、会社を通じて登録されるのではなく、個人でエントリーされる方がほとんどです。現在も個人での登録が主流ではありますが、最近は企業の方が、「社員研修として実施したい」というケースが出てきました。
藤岡: それはいい流れですよね。
堀: 企業の社会貢献としてNPOの支援をすると言えど、「どの団体をどんなふうに支援していいか」というノウハウが企業側にはないので、「サービスグラントの仕組みを取り入れていただいたらどうでしょう」とご提案をしているケースがあります。サービスグラントでは、NPOが必要とする具体的な「成果物」をメニューとして持っています。
幅広い視点からNPO法人を支援
このような支援をしていくのですが、その際にいくつかのポイントがあります。
そもそも、個人とNPO団体をマッチングして「あそこの団体さんに行ってね」と言っても、言われた個人は「エッ!知らない団体だし、いつまでやらされるんだろうか」と、大きな不安を抱えがちです。自分の本業もあるので、活動をずっと継続することは難しいでしょうから。
このような事情を踏まえ、サービスグラントではこのような支援メニューを、すべて6か月以内に終わるように設計しています。
まず、「期間限定」にするのが1つ目のポイントです。
そして次に、一人ではなくてチームで行くこと。5~6人のチームを編成して「みんなで考えていきましょう」という体制にすると、1人ひとりの負担感が少なくて済みます。
同時に、「週5時間くらいのボランティア活動にしましょう」と皆さんとお約束した中で、チームを作っていくようにしています。
藤岡:プロボノをされている方たちは、だいたい週5時間くらい提供しているということですか?
堀: そうですね、平日の夜と週末のどこかで。
ただし、私たちが「この5時間でやりなさい」と言っている訳ではなく、実際関わられた方に「どれくらいの時間数、活動していましたか」と聞くと、大体が「1週間に5時間くらいかなあ」という回答でした。メールのチェックや、皆での打ち合わせを含めて平均すると、そのくらいの時間が多いようです。
藤岡: スタートしてから何年くらいですか?
堀: 任意団体の時代からで言うと、今ちょうど10年ですね。法人化して5年目になります。
人材育成にも活用できる「プロボノ」
藤岡: 今後のビジネスモデルとしては、法人の社員さんがプロボノとしてボランティアに来てもらって、その法人から費用をいただくという仕組みになりますよね?
堀:そうですね。登録されている方は個人の方が多いので、これまでの私たちのビジネスモデルに大きな変化はありませんが、今後は企業さんと一緒にやっていく可能性は多分にあります。
以前は、企業が社会貢献としてサービスグラントと一緒にやっていたのが、最近は窓口が人事部に替わるケースも出てきており、「社員の研修として使っていこう」とされる企業さんが増えているように思います。
藤岡: なるほど、人事系の部署が研修予算を充てているということですね。
堀: そのようなケースも出てきています。他にも、1日でできるプログラムを開発したり、育児休業中のお母さんたちが職場復帰への不安感を解消するために、プロボノでワンクッションを置いてみたりということも可能です。
社会貢献という意味合いだけではなくて、少しずつ社員育成としても使っていただけるようになるのではないかと思います。
藤岡: やはり、担当部署は人事系が多いですか?
堀: 某大手企業さんは人事です。某製造企業さんは社会貢献部。その両方、またはどちらかであることが多いです。
「社員教育にどこまで有効なのか」がまだまだクリアになっておらず、検討されている企業さんが多いので、「社会貢献だったら可能でしょうね」ということで、スッと入っていらっしゃるところもありますね。
世の中がよくなっていく、その道筋を見続ける楽しさ
藤岡: では、これから一生懸命企業と連携して収益を確保し、この活動を拡大するというか、地盤を作っていくということですね。
堀: そうですね。ただ、企業さんは、そのワンプロジェクトの金額をなかなか出していただけないことが多くて・・・。「どれくらい社員に貢献できるんだろう」というのが確かではない分、その踏み切りが難しいと皆さんおっしゃいますね。
藤岡: 研修という名目であれば、可能性はあるように思います。
堀: そう言ってくださる企業がたくさんあって、回っていけば本当に理想的なんですが。
藤岡: でもすごいですね。事務局お二人で、400~500人の登録者を管理していらっしゃるというのは。
堀: 全会員さんが随時動いていく訳ではないので、何とかやれています。毎月イベントをさせていただいたり、今日もイベント、明日は企業さんのワークショップをお手伝いしたりだとか。ちょこちょこ動きながらやっています。
藤岡: それで10年目ですよね?
堀: はい。大阪で5年目です。
藤岡: 大変な労力とエネルギーですね。
堀: でも、NPO団体の方に出会って、社会的課題を解決していくことに社会人の方が取り組んでくださる様子を見ているので、私たちはそれがすごく楽しくて。それがどのようにお金に変わっていくのかはなかなか分かりにくいことですが、世の中がよくなっていくための道筋をずっと見ているので楽しいです。
藤岡: 仕事の報酬は、お金じゃないですからね。仕事の報酬は仕事です。仕事をすることによって仕事が生まれてゆく。これが最大の報酬ですよね。皆さん、社会的インパクトの大きいことをされているわけですから。
会社だって社員だけがいくらがんばっても変わらない、社長だけがんばってもも同じことです。会社が変わらないと。だから、プロボノは会長や経営者にもやってもらわないとね。
堀: 実は、ちょっとその芽があるんじゃないかと思っています。面白いですよね。
藤岡: 私は、1,000社の企業がNPOと本格的に組んでいったら、きっと大きな波になるだろうと思います。それを一緒に作っていきましょう。
皆さんの発展というのは、社会がよくなるということ。その結果でしょうから、そこには一緒に向かっていきたいと思っています。「社会がよくなっていく」これが僕らの到達点だと思っていますから、これから我々の仲間である経営者にも、どんどん紹介していきたいと思います。今日は、どうもありがとうございました
プロフィール 堀 久仁子 氏
NPO法人 サービスグラント 関西事務局(非常勤)
コミュニティ活性化支援を行う、財団法人大阪市コミュニティ協会にて、区民センターの運営管理業務のほか、企業・専門家との協働事業のコーディネートや、 NPOとの連携による事業の企画運営を担当。
2013年1月より非常勤として、サービスグラントが実施する「ホームタウンプロボノ」(全国初の取り組みとして、大阪で活躍するビジネスパーソンが、仕事で培った経験やスキルを活かし、地域コミュニティづくりを応援するプロボノプロジェクト)の運営に携わり、地域コミュニティへのプロボノプログラムを推進している。