グランディーユ 小笠原

障がい者に、働く喜びと責任感が持てる環境づくりを

小笠原恭子氏 株式会社グランディーユ 代表取締役

行動する人がいないなら、組織を作ろう

hori-04株式会社 シーエフエス 代表取締役 藤岡俊雄(以下、藤岡): 事業内容をお聞かせください。株式会社グランディーユ 代表取締役 小笠原恭子(以下、小笠原): グランディーユは、障がい者やニート(若年無業者)、引きこもりの方々を雇用している株式会社です。
社会福祉法人の場合は、「障害者手帳」を持っている方しか雇用できない制限があります。経済的に厳しいニートや引きこもりの方の雇用も考えると、社会福祉法人では賄いきれないと思い、株式会社にしました。藤岡: そこには、発達障がいの方も含むのですか?小笠原: はい。発達障がいの方も含みます。
カフェ「メゾン・ド・イリゼ」の他に、仕出し事業と、2015年4月1日からは、大阪府堺市の委託事業で、地域活動支援センター「ぜるこば」(精神障がい者向けの通所施設)も運営しています。藤岡: 施設を運営していらっしゃるのですか?

小笠原: はい。カフェ事業、仕出し事業、障がい者・ニート・引きこもり支援の3つの事業を柱にしています。
「ぜるこば」は委託事業なので、決まった金額の範囲内で動かしていくものです。経営的にどうこうと言うより、「居場所をどのように作り上げていくか」を考えながら運営しています。

カフェ事業や仕出し事業については、売り上げがここで働くスタッフのお給料に直結することもあり、最初はどのように経営していけばよいのかをすごく考えました。
障がい者雇用の現場では、スタッフの家族や、同じような障がい者施設など内々で、金銭やものの循環を終えてしまうことがよくあります。その場合、発生する金額が低くなる問題が生じます。
また、スタッフの家族が買うとなると、商品に対して「良いものを作ろう」という追求心が薄れてしまい、「完成したから買ってもらおう」程度の、商売っ気がないものになってしまいがちです。

私はそれがとても嫌でした。「何が、どのように求められているのか」を追求したものを作り、評価されたものが対価となって返ってくる、というシステムを作りたかったのです。一般的に、社会はそのような経営になっていますよね。「対 障がい者となると、それが崩れるのはどうしてなのか」という疑問がありました。
そこで「経営をもう1回勉強しよう」と思い、2012年に大阪市立大学大学院 文学研究科 教育学専修に入学したのです。

hori-05大学院では「障がい者福祉や障がい者教育となると、途端に健常者と同じ扱いにならないのはなぜか、どうしてそうなるのか」について、2年間勉強しながら論文を書きました。
最終的には、「行動しようとする人がいないだけなんだな」というところに行き着いたんです。「障がい者を雇用して、良い商品や製品、市場に勝ち得る商品を作ろう」と思っている方はたくさんおられます。しかし、その方法が分からなかったり、どのように組み立てていけばよいのかというロジックを知らなかったりする方が多いことに、2年間で気付くことができました。
そこで、「やりたい人がいるなら、賛同を得ながら組織を作りたい」と思ったのです。いろいろな方々の意見を聞きながら、この組織を立ち上げました。

「もう少し社会に出て行きたい」その気持ちをバックアップ

小笠原: 現在の場所は狭いのですが、有効活用しています。
朝は、健常者プラス、精神障がい者の方々に働いていただき、仕出し弁当の仕込みを行います。高齢者の個人宅や、堺市役所の職員様向けにお弁当を販売しています。
あとは、女子会や親御さん向けの弁当もあり、そのような感じで仕出し班は回っています。

午前11時半になると、仕出し班は販売に行き、店舗にはいなくなります。
次に女性スタッフが入り、カフェの運営をしています。普段、私は全くここにはおらず、店長に任せています。
店長を務めているのは、引きこもりの当事者でもある女性です。「もう少し社会に出て行きたい」という気持ちが強いスタッフなので、彼女を店長に決め、ほとんどの経営を任せています。

店長から次のスタッフにバトンタッチして、このお店を2人で回している感じです。
精神障がい者には疲れやすい部分があるので、希望を聞きながら、1週間のうち、毎日違うスタッフが店舗に入ります。
皆さん、週1日の数時間しか働かないのですが、慣れてきたら、日にちを増やしたり時間を延長したりと工夫しています。

hori-06藤岡: 店長さんの業務は健常者でも大変なのに、こちらのスタッフの皆さんは大丈夫なんですか?

小笠原: これまで、遅刻や欠勤はないですね。

藤岡: 現在の店長さんは、店長になりたいという思いがあったのですか?

小笠原: 彼女は、元々そのようなことをしたかったのです。いろいろな話を聞きましたが、「皆と一緒が嫌なんです」とよく言っていました。
皆と同じように週1日だけ入るのでは嫌なこと、「私はずっとここにいたい」と言う気持ちが強いことは前々から言っていたので、少しずつ彼女に任せていきました。

お給料をもらう「重み」と「責任」。社会の基本を伝えたい

小笠原: どの企業さんでもあることですが、人の教育が一番しんどくて、それは健常者も障がいのある方も同じだと思います。
「同じところで経営者がつまずくということは、そこに健常者と障がい者の垣根はないんだな」と感じます。他の企業の社長さんと話すと、「その悩み、うちの会社と一緒だね」と言われますし、障がい者かどうは関係なく、人の教育はすごく大変ですね。

藤岡: 障害者だからと言って、甘やかしたらダメなんですね!

小笠原: そうなんです! 私も、それについては常に悩んでいました。
お給料をもらっていることに何ら変わりはないですから、障がい者であっても、お給料をもらう「重み」と「責任」はしっかり持ってほしいなと思っています。
それはどこに行っても求められるものだと思うので、スタッフに対しては、そうした社会の基本を伝えていきたいと思います。

藤岡: 給料袋をもらったら、嬉しいですからね。

小笠原氏:一見、私がやさしく見えるみたいで、私のことを「やさしいだろう」と思って来てくれる子も多いのです。
しかし実際ここで働くと、私は意外とやさしくはなく、厳しいんだなということに気付くようです。
でもそれは、「働くとはどのようなことなのか」を分かってほしい、という母心・親心からなのです。

ここは中間就労の場。「ちゃんと」卒業していく人がいてもいい

hori-01藤岡: この事業を始めるにあたっての資金や、運営して行くためのお金はどうされたのですか?

小笠原: 立ち上げの時期には、自己資金でやるのか、借り入れをするのかですごく悩みましたが、自己資金を取っておきたいので借り入れにしました。
そうは決めたものの、「金融機関が私に貸してくれるのかな」という不安もありました。
その時、株式会社ちふれ化粧品さんが、ちょうど「女性起業家支援制度」を始められたのです。第1回の採択者を募集している記事を見て、応募しようと思いました。

そこで提供される資金は1,000万円で、900万円は融資、100万円は資金を贈与します、との制度でした。
もちろん、返さないといけない金額もあるのですが、その制度のおかげで金融機関で借りるより利子も低いですし、「ちふれ化粧品」というバックが付いています。
また、ちふれ化粧品さんのWebサイトに「採択者」として名前が載るので、広告効果も期待できると思いました。

さまざまなメリットを考えて応募したところ、採択されて、資金はそこで賄いました。
しかし、融資額は決まっており、それを有効活用しようと思うと、家賃や固定費を抑えないといけないなど、さまざまな制約も出てきました。
当初は違う場所での出店を考えていたのですが、それを諦め、少し離れたこの場所に落ち着いて、事業を始めました。

藤岡: 夜は営業していないのですよね?

小笠原: 夜はしていません。

藤岡: 人材の募集は、どのようににされているのですか?

小笠原: 大きく告知はしていません。現在の店長は元々の知り合いで、「ここで働きたい」と思ってくれていたので、まず、その人を雇用しました。彼女の友達に引きこもりの方が何人かいて、「雇ってくれないか」という話になり、そこで3人雇いました。

hori-05また、大阪府堺市にある、精神障がい者の雇用を促進する団体「エマリス」の方と以前から知り合いで、「こういうカフェをやりたいんです」と話したら、「仕事をやりたい、と言っている子が数人いるから、マッチングさせてもらえないだろうか?」との申し出があったのです。その団体を通じて、精神障がい者の雇用が生まれました。

メディアに取り上げられることが多くて、テレビや新聞媒体、地域の機関紙などに載れば載るほど、お客様よりも、「働きたい」という方の話が多く寄せられるようになりました。求人広告を出さなくても「働きたい」という声は、常にあります。

私はここを中間就労の場だと思って、もう1年半動いています。スタッフの皆さんがここに定着するのではなく、そろそろ、「ちゃんと」卒業していく人がいてもいいのではないかなと思っています。ですから、外に目を向けられるよう仕向けている感じですね。
現実的には、障がい者への理解が少ない企業が多いですから、自分の力で働き、コミュニケーションを取って、お給料をいただけるように働いていかないといけないと思っています。そういう意味での「ちゃんと」ですね。

「自分が本当に何をやりたいのか」を考える場所に

hori-03小笠原: あと、本当にやりたいことは人によって違うと思うので、カフェが本当にやりたいことじゃないかもしれない。
それでも、ここで一応の給料はもらえるし、障害に対する理解があると来ている人が多いので、ここに在籍している間に、「自分が本当に何をやりたいのか」「どういう道なら生計を立てていけるのか」を、ゆっくり考える時間にしてほしいと思っています。

藤岡: 資金は、もう持っているわけですよね?

小笠原: そうですね。借り入れもしていませんし、自分たちの利益だけで回していますね。

藤岡: すごいですね。始めて何年目とおっしゃいましたか?

小笠原: まだ1年半です。

藤岡: それは早いですね。

小笠原: でも大変ですよ。朝は「仕出しってこんなに大変なんや~」と言いながら、みんなでやっています。

藤岡: 仕出し事業は、何食くらいやっているのですか?

小笠原: その日によって違うのですが、大口需要がある時は、70~80個行きますね。少ない時は、20~30食しか出ない時もあります。
当社のはただの仕出しという訳ではなく、大阪府吹田市にある「国立循環器病研究センター」と提携したものです。センターから当社に配信されたレシピに基き調理をすると、「塩分が2g以下・600kcal以下」の弁当が完成します。弁当もお店で出しているランチも、その基準を満たすよう作られており、「国立循環器病研究センター」の名前を貼り付けて販売しています。

藤岡: なるほど、なるほど。

小笠原: 特に高齢者にとっては安心できるのと、塩分2g以下はあまりないので、そこが人気ですね。600kcal以下と言うのは珍しくありませんが、「塩分が控えめ」は、なかなかないんですよ。あったとしても、おいしくないのが大半ですね。おいしくなかったら出ませんから。

「社会貢献をしたいけど、どうしたらよいのか分からない」人たちへ

小笠原: 「社会貢献をしたいけど、どうしたらよいのか分からない」と言う方が、ここに来て食べていただければ、売り上げが皆さんの給料に反映されます。
「社会貢献をやりたいと思っている人にとっては、この場はすごくありがたい」との声をいただき、こちらとしても本当にありがたいです。そんな人たちが集まる場所にして行けたらな、と思っています。

藤岡: 今後やろうとしていること、やりたいことは、どのようなことですか?
地域活動支援センター「ぜるこば」についても、教えてください。

小笠原:「ぜるこば」は、精神障がい者の居場所カフェのようになっています。歌ったり、クッキングしたり、踊ったり、制作をしたり、映画鑑賞会をしたり。そうしたプログラムを毎日1つずつ入れて、それを目がけて来所できるよう工夫しています。

特に引きこもりや障がいのある女性は、どうしても家にいがちになってしまうのです。男性のほうが積極的に外に出てきますね。
「女子を、もう少し家から出られるようにしたい」との思いから、まず気楽に来てもらえるよう、ネイルやメイクなどの女性受けするプログラムを増やしつつ、女性利用者を増やそうとしているところです。

藤岡: 活動内容がよく分かりました。本日は貴重なお時間をありがとうございました。

 

プロフィール 小笠原恭子氏

profile-hori株式会社グランディーユ 代表取締役
カフェ「メゾン・ド・イリゼ」オーナー
1977年、大阪府堺市生まれ。相愛大学音楽学部器楽専攻卒業。
働きながら料理学校「ル・コルドン・ブルー」で学び、2008年フランス菓子教室を開く。
障がい児・者教育の研究のために、2012年 大阪市立大学大学院 文学研究科 教育学専修入学。
2014年3月、株式会社グランディーユ設立。同年7月7日、カフェ「メゾン・ド・イリゼ」オープン。http://grandeur-jp.com

 

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