ソーシャルビジネス・企業・NPO・ 行政をつなぎ、ネットワークの力で社会を変える 施治安氏
- 2015/8/29
- 対談・インタビュー
- NPO, あり方, ソーシャルビジネス, 一般社団法人公益資本主義推進協議会, 大阪を変える100人会議, 対談, 施治安, 社会事業家, 社会起業家
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ソーシャルビジネス、企業、NPO、行政をつなぎ、ネットワークの力で社会を変える
台湾国籍の華僑三世として大阪市に生まれた、施 治安(せ はるやす)氏(株式会社 遊企画 代表取締役)。在日外国人という立場で、早くから社会問題に関心を持ってきた。いったんは経営の道に入るも、50歳の時、社会問題をビジネスの手法で解決していく「ソーシャルビジネス」の概念と出会い、以後、大阪の地で社会問題に取り組むさまざまな立場の人々をつなげるネットワーカーとしての顔も持つ。3年前には「大阪を変える100人会議」を立ち上げ、活動にさらなる弾みがついた。がんじがらめのタテ割り社会に、緩やかでしなやかな横軸ネットワークが風穴を開けることを施氏は信じている。<編集部より>
「大阪を変える100人会議」事務局長 / 株式会社 遊企画 代表取締役 施治安氏
学生時代のボランティアが原点
藤岡: 「大阪を変える100人」会議についてお聞かせ頂けますか。
施治安:きっかけからお話させて頂きたいのですが、私自身が在日外国人ということで、高校時代から差別問題や貧困問題、戦争問題などについて考える機会がたくさんありました。
大学時代はそれに基づいてボランティアベースで社会活動を、啓蒙活動ですね、イベントやったりビラを配ったり。
それでも世の中ビクとも変わらないなあという苦い経験もありながら、そのままビジネス界(実業界)に入ってきたんですけれども、10年ほど前にソーシャルビジネス、社会起業という言葉に出会いまして。
それまでは自分で経営の色々なノウハウやスキルを蓄えてきたわけですが、新たに社会問題をビジネスの手法で解決するということを色々実践されている方にも会っていく中で、本来は企業が社会問題を解決していくものであるにも関わらず、気候変動からうつ病に至るまで企業が大部分の社会問題を起こしている状況を鑑みて、ソーシャルビジネスがもっと日本、特に関西の経済界に増えていったらいいなあという思いで、ネットワークづくりをこの10年間ずっとやってきて、企業のCSRとも結びついて、そういう時にちょうど数年前ですが原丈二さんの公益資本主義のお話をお聞きしまして。
三方良しという考え方は、松下幸之助や渋沢栄一さんなどちょっと前の日本の経営者はみなそれをしていたんだということに気が付きまして。今後はネットワークの力によって社会を変えていく、セクターを越えて三方よしの経営者、社会問題を解決するNPO、本当に地域のことを考えている行政の方々、こういう方々がネットワークで結びつくことによって社会が変わっていくと信じて、この10年間は活動してきました。
それが私の企業人としての社会貢献活動かなと思って、現在に至っています。
ソーシャルビジネス、企業、NPO、行政を結ぶ”プラットフォーム”
藤岡: そのような経緯があって、今に至っているわけですね。
「大阪を変える100人会議」の内容についてもお聞かせ頂けますか。
施治安: 大阪府下で社会問題に対して継続的に取り組み、実績を持ってやっている社会事業者、NPOやソーシャルビジネス、いわゆる社会的起業と言われている方々ですよね。
10年前から信頼関係を構築してきまして、それを3年前に「大阪を変える100人会議」ということで組織化をしました。彼らは経済規模的に言えばまだ中小企業なので良いことをやっているんですけれども、それをもっと大きく広げていくために組織化して見える化していくことによって、個々の力をもっと表に出して大きくしていきたいなということで、関西の経済界の一角にソーシャルビジネスの産業クラスター的なネットワークを自分が死ぬまでに何割かまでは持って行きたいなと思いまして。
「大阪を変える100人会議」というのはただ単にソーシャルビジネスの経営者団体ではなくて、それをプラットフォームにして行政や企業や地域の方々、他のセクターの方々、組織を超えて社会テーマも超えて色々な方々を結ぶことによって大きなコラボレーションが生まれていく、そのコラボレーションによって大阪を元気にしていくというのが「大阪を変える100人」会議です。
メンバーは3年間で700人に
藤岡: スタートはいつ頃ですか。
施治安:3年前、2012年の9月です。
藤岡:いま現在は何人ぐらいいらっしゃるんですか。
施治安:「100人」というのは実量ではなくネーミングでして、実際には先ほど定義づけしましたソーシャルビジネス・社会的事業者は60数名ぐらいで推移していまして、その周りに心ある行政の方々や企業のCSR担当の方々や地域の方々も含めるとメーリングリストには700人ぐらいにいます。
藤岡:すごいですね。Facebookページもあって、ご自身で情報発信されていますよね。
施治安:私は事務局ですから、バックヤードの事務作業や情報発信も行います。絶えず新しいことを企画していくことによってネットワークの求心力を高めていこうと考えて情報発信もしています。
藤岡:それをご自身でされているというのがすごいですよね。
施治安:若い社会起業家と接しているので、最近どんどん若返ってきました(笑)
藤岡:ソーシャルビジネス・社会起業家との接点は、向こうから紹介で来ることもあるでしょうけれども、施さんのほうから行くこともあるんですか。
施治安:例えば、Homedoorの川口加奈さんは10代の終わりから、その時はまだ大学生でNPOを立ち上げる前でしたが、色んなネットワーク支援をしたりしていました。そういうNPOはたくさんあります。
他県へも積極的に”スケールアウト”
藤岡:いまは大阪限定でしていらっしゃいますが、今後はどのようなお考えでいらっしゃるのでしょうか。
施治安: 私自身は日本全体が元気になるには、東北と関西が元気にならないといけないと自分では思っているんです。しかし東北は距離的に遠いですし、関東の方々がたくさん東北の支援もされているので、私は大阪を元気にしていこうということで大阪府内をいつも走り回っています。
全国で100人会議を作ってどうこうという気持ちはありませんが、良いものを作っていくと「それいいね」ということでスケールアウトしていくものだと思うんですね。
社会起業も実はそうで、東京に病児保育のフローレンスというNPOがありますが、そこののれん分けで大阪にノーベルが立ち上がって、病児保育のことなら他の都道府県でも参考にして良いやり方を取り入れていくという。一般のビジネスではスケールアップを目指しますが、社会起業は大きくなること(を目指しているの)ではなくて、ノウハウはどんどん教えますよと。社会課題を解決するために活動しているわけですから、そのためにはどんどんスケールアウト、学んで他の地域でどんどん広げて下さいと、それが本望だと。
そういうのがそもそもありまして、「100人会議」も実は奈良で「奈良をよくする100人の会」というのが立ち上がっていまして、沖縄でもいまキーマンたちが「100人会議」の立ち上げを準備中です。
藤岡:そうですか。
沖縄では若者たちが
施治安:沖縄は特に高齢者に権益が集中していて、中年層は元気がなくて、若い方が「これから沖縄をこうしたら!」と思っているんだけれども、大阪以上に押さえつけられているというか、沖縄の若い人って発言権がないみたいんなんですよね。
藤岡:確かにお年寄りに逆らわないという文化的なものもありますもんね。
施治安:それを何とか打破したい!ということで、100人会議を準備中です。
まず実績のある若者が100人会議で横のネットワークを作ろうよと。
藤岡:そうですか。それは是非できるときには私もご一緒しますので。
施治安:はい、私も立ち上げの時には沖縄に行こうと思っています。
沖縄の方が度々大阪に来て、100人会議のやり方を見ていますので。
現場のプレーヤー同士を緩やかにつなぐ
藤岡:自然発生的にそうやって表れてきたら、ノウハウを伝授して。目的さえ叶えばいいわけですもんね。自分たちのスケールメリットは関係ないということなんですね。
それは賛同します。
施治安:地域性がかなり違いますのでね。特に地域貢献・社会問題に対するソーシャルビジネス・ベンチャー企業は東京に次いで大阪もかなり集積しているので「大阪を変える100人会議」も立ち上げができたんですが、他の地域で社会起業家と言われる方々は農業や林業などの一次産業関係は結構ありますが、それ以外は少ないんですよね。
100人会議の一番の本質は現場のプレーヤー、ソーシャルビジネス、社会起業家でなくてもいいと思うんですよ、地域活動とか色々されている方々、そういう方々を現場の主要なキーパーソンとして月に1回でも一緒に食事でもしながらお互いに立場が違っても志がつながってくると思うんですね。それが地域の活性化に結びついていくというのが、100人会議の一番のメソッドです。
ネットワーク力で起業家たちのビジョンを後押し
藤岡:なるほど。そのような活動をやればいいと分かっていても、やらないわけですよね、やれないのかもしれませんが。施さんはやはり年齢を重ねられて、そのような考え方に至ったのでしょうか。
施治安:大学生に「経営の4つのファクター」ということでよく話すのですが、これはNPOでも株式会社でも同じだと思いますが、縦軸と横軸で言うなら(縦軸は)上に「ビジョン探求力」下に「現状分析力」、(横軸は)左に「マネジメント力」右に「メンター力」もしくは「コミュニケーション能力」。若手の経営者で代表を務めている人は、思いっきり縦軸なんですよね。現状分析をやって、うちの会社(NPO)は「こうする!」というビジョンをね。政治家で言うなら小泉純一郎さんとか、経営者で言えば本田宗一郎さんとか。
しかし実はその横にナンバー2、横軸の人がいるんですよね。
未来の会社のあるべき姿というのを深く洞察する人がトップにいれば、まずその人が旗振り役をするわけですが、昨日・今日・明日の経営を密かに回していくのはナンバー2の人で、これが横軸なんですよね。マネジメント力と、メンター力・コミュニケーション能力がある人。
例えばホンダで言うと藤沢副社長ですね。本田宗一郎さんはお亡くなりになる間際に「俺の一生は、副社長の藤沢の手のひらの上で踊らされていた」と言ったというエピソードがありますが。
私は、社会を動かすのは横軸のナンバー2だと思うんですよ。私自身はずっと経営者として思いっきり縦軸だったわけですが、いま私は大きな横軸になっています。要するに、縦軸の人のビジョンに共鳴してそれを手伝うことによって自分のミッションを成就していく。(NPO法人Homedoor理事長)川口さんや(NPO法人)ノーベルさん等いっぱいある(ソーシャルビジネスの)縦軸に対して、その横軸になることができているのかなと思います。50歳を過ぎてから、自分に横軸のネットワーク力があることに気づいたんです。
藤岡: (施さんは確かに)長けていると思います。
遥かなビジョンへ至るステップづくり
治安:数ヶ月前にレオ財団で藤岡さんに初めてお会いしましたけれども、藤岡さんも自社の経営においては縦軸でいらっしゃると思いますが、PICCでは巨大な横軸をしておられて前代未聞のネットワーカーだと思って尊敬しています。
藤岡:我々の場合は会長が壮大なビジョンを作るわけですよ。
そこまで到達しようと思うと普通の人は息切れを起こしてしまうので、私はステップを踏んでいけるように経営実践研究会を作ったり「在り方大学」を作ったり、PICCの中でも勉強会だとか研修会を用意して徐々に徐々にね。遥か遠いビジョンに対してどうやってこの組織を動かしていくのか、それが一番の私の仕事ですよね。
施治安:必ず全ての事業において、縦軸と横軸の両方を完璧に備えている人って少ないんですよね。
縦と横がペアだから上手くいく、私はそう思っています。
藤岡:褒めていただいたようで嬉しいです(笑)
施さんもコミュニケーション能力が長けていて、すごいなあと。あとは「マメさ」だとか。
60代でネットで情報発信をしている人ってなかなか居ないですからね。
施治安:好きなんですよね。ネットワークで社会貢献するのが、自分のこれからの生き様というか。
日本は縦割りがきつい社会なので、横をどんと通していくことによって、実は横軸が社会を動かしていくんだと強く思います。
藤岡:そうですよね。偉い人が世の中を変えてきた歴史というのはありません。偉い人たちはみんな弊害を作っていくんです。
NPOやNGOは(我々が)日頃の経営では出会わない方々ばかりなので、今後も施さんに頼って(笑)、色々やりたいと思っています。
施治安:一生懸命やっている地域の方々もたくさん居ますし、真剣な思いでやっている行政の方もいますので、ぜひまた。
セクターを越えた出会いと議論を
藤岡:経営者がどんどんそういう人と接するべきですよね。そして、議論すべきなんです。
みんなは、その「議論」をする元になる知識がないんです。議論をする元になる体験を持っていないので、だから私はこの在り方大学を通じてまずは出会ってもらう。出会うことによって議論ができるわけですから。そういう場所をどんどん作っていきたいなと思っています。
施治安:実践をしていかないとね。実践して理論、また実践して理論と、そうやってどんどん高めていかないと。そういう意味では色んな人をこうして呼んできて、できればそこのNPOにインターンシップに行ったり一緒にボランティアやったりとか、それからまた「在り方大学」に戻ってきて講義を受けたら理解が全然違いますよね。その繰り返しかなと思います。
藤岡:この70年間、社会で「企業とはお金を儲けるところなんだ」と皆教えられましたから。ですから今ようやく時代の過渡期が来て、みんな興味関心を持ち始めたところで、まだこれからだと思いますので是非ご一緒に理想社会に向かってよろしくお願いします。
施治安:よろしくお願いします。
プロフィール 施 治安 (せ はるやす)氏
台湾国籍の華僑三世として1954年(昭和29年)、大阪市天王寺区に生まれる。株式会社 遊企画 代表取締役、ソーシャルイノベーション大阪(SIO)運営委員会代表、「大阪を変える100人会議」の事務局長。50歳になったときに、それまでのサービス系ベンチャービジネスの人生から方向転換。生まれ育った大阪の地に恩返しするため、社会貢献に余生を捧げることを決意。2008年9月に、ソーシャルビジネスを大阪からつないでいこうという思いをもとSIOnetworkをスタート。また2012年9月には大阪におけるさまざまな社会の課題解決にビジネス手法で取り組むひとたちが集まって結成された「大阪を変える100人会議」を仲間と立ち上げるなど大阪や関西の社会起業家たちを結びつけるハブ的な役割を果たしている